033.ファースト
2017/04/16(Sun)
この面倒くさがりなわたしに、1年ぶりにブログ更新させて
10年ぶりに二次創作を書かせた薪さんと青薪のすごさたるや。

最初で最後かもしれない青薪さん話。
これが限界でした。
どうせならと、お題100に絡めてみました。
えろくも甘くもない、普通の原作寄りの二人。
でも書いててめちゃくちゃ楽しかったので自己満足達成。

033.「ファースト」


「ふう」
 ひとつ息をついてモニターの電源を落とし、コートと鞄を手に取る。
 凝り固まった首を回しつつ周囲を見渡すと、すでに自分以外の職員の姿はなく、広い室内に自分ひとりが取り残されていたことを再認識する。
 つい時間を忘れて、根を詰めすぎたな。と心中でぼやきかけて、しかしまだ「自分ひとり」ではなかったことに青木は思い至る。
 彼が視線をめぐらすと、じきに日付が変わろうとする時間帯にも関わらず、室長室の窓からは明かりがもれていた。それは珍しくもなく、いつものことなのだが。

 青木は、帰り支度を整えたその足を、まっすぐ室長室へと向けた。
 2回のノックに対して、扉の向こうからは「何だ」と声が返ってくる。
「薪さん」
 呼びかけつつ扉を開けると、執務机の前に立つ薪がこちらを見た。
 机上には彼の鞄が置かれている。
「遅くまでお疲れさまです。・・・今から、お帰りですか?」
「ああ。おまえも早く帰れ」
 青木の様子から、すでに彼が帰り支度を済ませ退庁寸前であることを見取った薪は、そう一声告げるとすぐに顔を背けてコートを羽織った。
「・・・はい。では失礼します」
 2秒ほど逡巡したのち、青木は頭を下げ、静かに扉を閉めた。
 部下が去ったことを確認すると、薪も早々に自身の身支度を整え、手元のリモコンでセキュリティ施錠を操作しながら出口へと向かう。

 よどみなく滑らかな足取りでいくつかの扉を通過し、やっと建物の外へと出た瞬間、薪の足がピタリと停止した。
 琥珀色の瞳を見開いて、右隣に立っている大きな影を見上げる。
「・・・何してるんだ。青木」
 彼らの職場である「科学警察研究所法医第九研究室」の、その玄関前には、先に帰途についたはずの青木が立っていた。
 名を呼ばれた青木は、少し照れたように微笑み、薪の隣へ一歩近づいた。
「途中まで、ご一緒しようと思いまして」
 薪さんを待ってたんです。と言って、またにこりと笑った
「・・・僕が、いつ帰るかなんて分からないだろう」
「でもさっき室長室に伺った時、コートまで着ておられましたし。すぐに帰宅されそうなご様子だったので」
 嬉しそうに話す青木を憮然と見返して、薪は無言で足を踏み出した。
 玄関前に放置されそうになった青木は、あわてて薪のあとを追う。
「あの、薪さん」
 呼びかけるも返答はない。まるで青木など存在しないかのごとく、まっすぐ前方を見据えたまま早足で歩き続ける。まあ、これもいつものことだ。青木がちらりと横目で盗み見た薪の無表情は、決して不機嫌そうではない。怒っているわけじゃない。
 だって、これが彼。いつものことなのだ。
 この程度でめげていては、薪の部下は務まらない。

「薪さん。あのですね。お花見、しませんか?」
 この場にそぐわぬ台詞が頭上から降ってきて、薪は思わず足を止めて青木の顔を見た。説明を求めるように、少し眉をしかめて。
 薪がやっと自分を見てくれたことが嬉しくて、青木はにこにこと話し出す。
「ほら、この・・・いつもの帰宅ルートから少し横道に逸れた先に小さな公園があるのご存知ですか? そこに1本だけ桜の木があるんですよ。ちょうど桜の横に街灯があって、若干だけどライトアップ気分も味わえて、穴場なんです。寄っていきませんか?」
「寄って・・・って、今からか?」
 はいっ、と相変わらずの笑顔で青木は頷いた。
「おまえ・・・今日は何曜日だ?言ってみろ」
「わかってますよ。水曜・・・もう日付変わって木曜日ですけどねっ。明日ってか今日が休日じゃなくて出勤日で、また朝から大忙しなことぐらいオレだって理解してますよっ」
 薪から心底呆れたような、ともすれば可哀想な子を見るような目を向けられ、青木は少し赤くなりつつも反論する。
「少しだけ。15分、いや10分程度でいいんです。ちょっと寄り道するだけですから、そんなにお時間とらせませんからっ」
 最初は余裕めいていた青木の口調が、薪の眉根が寄ったままなおらない状況を受けて、だんだんと縋るようなものになっていく。
「別に、今日じゃなくてもいいだろう」
「いえ。今日じゃなくちゃダメなんです」
「なぜ」
「だって」
 なんだかオレ、駄々をこねる子供みたいになってないか?と焦りと恥ずかしさをおぼえつつ青木は、腕組みをしたまま口を曲げて困ったような顔で見上げてくる薪に向けて言葉を続ける。
「オレたちの、第九の仕事は・・・いつ何時、どのような件が持ち込まれるかわかりません。悲しいけれど犯罪事件は毎日のように起こっています。もしかすると明日にも突然、MRI捜査を必要とする事件が多発するかも知れない。そうなったら、いくら予定たてたってお花見なんて無理ですよ。事件解決してる間に桜散っちゃいます。それに。今日みたいにオレと薪さん二人の帰宅時間がちょうど合って二人だけで帰れて桜を見れる日なんて、滅多にないんですから。今日、今しか・・・」
「おまえたちが1日で事件解決すれば、花見ぐらいできるんじゃないのか?」
 静かな声で返されて、青木の全身が固まった。
 サーッと己の血の気が引いていく音が聞こえるようだ。
 そ、そりゃそうです、仰るとおりです。ごもっとも。すいませんオレ調子に乗りました。
 ですが薪さん、たった1日で解決できた事件なんて、第九史上1件でもありましたっけ・・・?
 もはや怖くて見れない薪の顔に、先ほど不可抗力でそらしてしまった視線を精一杯努力して戻してみる。
 だが青木の予想とは異なり、薪の瞳は氷の冷やかさを纏ってはいなかったし、口元に微かに浮かんだ笑みは、意地の悪い類のものではなかった。

「10分でいいのか」
「え?」
「どこだ?」
「え?」
「何してる、さっさと案内しろ」
 背を向けて颯爽と歩き出す薪に、ようやく事態がのみこめた青木があわてて追い縋る。
「薪さん、そっちじゃありません。こっち、こっちです」
 喜びと驚きが入り混じり呆然とした頭のまま、しかし薪の時間を無駄にしてはいけないと、青木は彼の腕をとって目的地までの道を示す。

 第九研究室の建屋から一般市街地へと続く石畳の歩道の途中、左手に向かって細い道が伸びている。
 その整備されていない砂利道へ足を踏み入れた二人は、1分もかからずに、こじんまりとした公園に到着した。
「良かった。誰もきてませんね。二人占めですよ」
 ほっとした声をあげて、そこで青木は薪の腕をずっと掴んでいたことに気付き、小さく謝って手を離した。
 だが薪は、青木を見てはいなかった。自分の腕の扱いにも頓着せず、その大きな瞳がただ見つめている先には、
「桜・・・きれいですね」
 薪は、こくりと頷いた。
 小さな古びた公園に見合う、小振りな桜の木だ。その横に立つ街灯の光も、心もとない弱さではあるが、暗闇に消え入りそうな桃色の花弁たちの姿をしっかりとうつしだす役目は果たしている。
 時折、風に揺れて舞い落ちる、その薄く小さな花弁も光の中で捉えることができる。
 桜の下に設置された唯一のベンチへ、青木に促された薪が腰をおろす。
 その隣へ青木も座ったところで、コートのポケットから取り出したものを薪へと手渡す。
「どうぞ」
 受け取ってから確認すると、それは缶コーヒーだった。生暖かい。
「なんだ。酒じゃないのか」
「こんな時間に飲んじゃったら、明日に響きますって」
 つまらなさそうに言う薪へ、青木が苦笑する。

 自分の分のコーヒーを一口飲み、青木は頭上の夜桜を仰ぎ見る。
「オレ、第九に入ってから花見をしたの、今日が初めてです」
「・・・僕もだ」
 ぽつりと呟くような声に、驚いて青木が薪の方を見る。
 彼の上司は、じっと桃色の空を見上げていた。まるで初めて見る景色のように、魅入られたように瞬きもせず、桜にも似た唇は僅かに開かれたまま、ただぼんやりと。
 いつもは鋭く硬質な視線が、今は柔らかい。
 絹糸のような薄茶色の髪が、風に揺れて白い額をかすめている。その髪には、頭上から零れた薄桃色の花弁が1つ絡まっている。
 一瞬見とれかけた青木は、揺らいだ手元のコーヒーを零しそうになり、ハッと我に返った。そして呟く。
「・・・嬉しいです」
 今度は薪が、驚いて青木の顔を見る番だった。
「薪さんの、初めてのお花見にご一緒できるなんて。それにオレも、入庁して最初の花見が薪さんとだなんて。嬉しいです」
「・・・別に、僕の人生初めての花見じゃないぞ。第九に入る前は何度か」
「はい。それでも薪室長と一緒に桜を見た部下は、オレだけってことですよね」
 にこりと、言葉どおり嬉しそうに笑った青木を、薪は一瞬呆気にとられたように見返していたが、すぐに顔を背けて立ち上がった。
「薪さん?」
「もう10分たった」
 あわてて青木が腕時計に目を落とすと、確かに公園に入った時に確認した時刻から寸分たがわず、きっかり10分が経過していた。
 この人の体内時計、どうなってんの・・・。
 そう声には出せずに心中だけで呟きながら、青木も急いでベンチから腰をあげる。

「おまえはまだ残っていてもいいぞ」
「え、いや、オレも一緒に帰りますよ」
 オレだって明日があるんですから。と言えば、急速に冷えた瞳で「明日に控えた仕事の量が分かっていながら、こんな深夜に上司を花見に誘うということは、おまえは随分と自信と余裕があるんだな青木?」といじめられそうな気がしたので、青木は口をつぐんだ。しかし足は、すでに帰途へつきはじめた薪の背中を追う。

「薪さん。そういえば来週は雨になるそうですよ。運が悪ければ都内の桜は、おおかた散っちゃうかも知れませんね。そう考えたら、今日見ておいてよかったですね」
 隣を歩く薪からの返事や反応は期待せず、青木は話し続ける。
 ただ、こうして彼の隣を歩くことができ、こうして自分の思いを彼に聞いてもらうことができる、それだけで十分だ。
 ・・・本当は、欲を言えば、会話も視線も交わしてほしいけれど。でも薪さんだし。
「そうだな」
 だから、期待していなかったから、耳に届いたその声にすぐに反応できなかった。
 数秒遅れて薪の横顔を見る。と、先程のは空耳だったのかと思い直してしまいそうなほどの変わらぬ無表情で、薪は前方を見据えたままだった。
 けれど、さっき見た桜を思わせるようなその唇が、開く。
「見れて良かった」
 そう発した一瞬だけ、彼の口元がほころんだ気がした。
 我知らず上気した青木の頬に、まだ冷たい春の夜風がふれる。
 せっかく薪が返してくれた言葉に、自分も何か言うべきだと思うが何も出てこない。

「じゃあ、僕はこっちだから」
 市街地の交差点に到着すると、薪は青木に背を向けたまま軽く手を上げ、雑踏の中へ踏み出した。
「俺もです」
 振り返りもせずに距離が遠ざかっていく、その姿から目を離せないまま、青木はようやく言葉を押し出した。
 もう彼には聞こえないと分かっていたけれど。
「俺もです。薪さん」
 桜を見れたことじゃない。あなたと、あなたと一緒に見られたことが、良かった。嬉しかった。
 そう、言えば良かったんだろうか。でも、俺みたいな部下にそんなこと言われても困るだけか?
 青木はなんとも困ったような顔をして、彼の真っすぐな背中が雑踏の中に消えゆくまで、ただ見送り続けた。

 -おしまい-

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